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青空作家、自作を語る 第3回
かよわき男たちへの檄文

佐野良二



『われらリフター』について記す前に、まず「リフター」とは何か、この用語解説から始めなければなりません。
 というのは、拙作の題名をよく間違える人がいるからです。
「いやあ、“われらフリーター”は面白かったすよ」なんて言われると、え、フリー ターのことなんか書いてないよ、ほんとに読んだのかな、と疑いたくなりますし、 「“われらドリフターズ”って、タイトルからしておかしいですねえ」なんて勘違い して感心されたりしちゃあ(これは、あの“8時だよ全員集合”を覚えている年輩 者)、作者は一体どんな顔をすりゃあいいのか、困ってしまいます。

 で、順序立てて解説しますと、まずウエイトリフティングについて。これはウエイ ト(weight=重量)を、リフティング(lifting =挙げる)する競技。リフト (lift)っていう運搬用の持ち上げる機械を見たことがあるでしょう。つまり「リフ ター(lifter)」とは“挙げる人”の意、“ウエイトリフティング競技者”のことで す。

『われらリフター』は、図書館司書の青年が読書グループの女性との腕相撲に負けて ショックを受け、突如、男の本能に目覚めて自らの肉体改造を志し、ついには力の魅 力にとりつかれ、リフターとして果敢な挑戦者に変身していく物語です。
 類は類を呼び、彼の周辺には力自慢の男たちが集まってきます。塗装工のファン キー、新古物商のナルシス、運転手の一番星、ガソリンスタンドのモハメッド、農業 経営のヘラクレス、酒店主のバッカス氏、内科医のマンゴー先生といった、主人公を 食ってしまうようなキャラクターたちが次々に登場し、ハチャメチャな展開となりま す。どうも力志向の男というものは、どこかユニークすぎる面があるようです。

 ところで、あなたはウエイトリフティングを見たことがありますか? エイヤッと バーベルを持ち上げるだけの単純極まりないこの競技が、よく観察してみれば、実に 複雑なバランス力学の上に成り立っていることがわかると思います。同時に競技者の 心理状態をも表出する競技であることに気づくでしょう。力めばフォームが崩れる、 しかし力まなければ上がらない、この二律背反の法則の上を、ただに不退転の気合に よって克服していくのがリフターなのです。
 目の前のバーベルを何としても挙げなければならない――競技者には悲壮な決意で すが、第三者には滑稽きわまりない行為とも見えましょう。しかし彼らはフィニッ シュの一瞬に己の全てを賭けて立ち向かうのです。記録更新を果たせば、またもや新 たな目標が待っているというのに……。

 この作を書くに当たって、作者の念頭にあったものは「シジフォスの神話」でし た。巨大な岩石を山頂に押し上げる永遠の刑罰を課せられたのは、ギリシャ神話のシ ジフォスのみならず、現代の人間すべてに課せられてあるのはないでしょうか。
 山頂に押し上げればたちまち転がり落ちる岩石、そしてまた押し上げなければなら ない現実、これが人生というものです。しかしながら、生きていく者にとって苦役も また楽しみであること、痛みもまた幸福であることを感じとってほしいと思います。 リフターが試技に入るときの、息苦しい重圧をはね返す気合、この精神の高揚こそ生 きている証であること、を。

『われらリフター』は平成5年、近代文芸社から発刊され、その後、絶版となりまし た。ネット上で多くのみなさんに出合い、人生に笑いと励ましを贈ることができれば 幸いです。


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