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三重県では、文学者の出身市町の図書館に展示室を設けるケースが多い。丹羽文雄記念室もその一例、四日市市立図書館の二階の一画に設けられている。見学に際しては、係員に申し出る必要があり、見学中は付きっ切りの説明を受ける。自由に閲覧したいと思う人には窮屈なシステムかもしれない。しかし、様々なエピソードの紹介や質疑応答のうちに理解が深められるという利点も捨て難い。
ドアの手前が前室、奥が記念室となる。前室の書棚には、丹羽作品を掲載した雑誌がぎっしり並ぶ。記念室に入ってすぐの展示ケースでは、幼少時から海軍報道班時代までを紹介。明治37年、四日市市の寺に生まれた文雄は、早稲田大学第一高等学院在学中に尾崎一雄、浅見淵を知る。早稲田大学に進むと、尾崎の紹介で同人雑誌「街」に参加、『秋』を発表した。作家人生を決めたのは、『鮎』。家業を継ぐため四日市に戻っていたが、昭和7年、永井龍男の推薦を受け「文芸春秋」に掲載、「朝日新聞」で杉山平助に賞讃されたことを尾崎により知らされ、郷里を出奔した。
情痴作家とも呼ばれた文雄であるが、昭和13年以降は、戦地派遣の経験をもとにした作品が多くなる。『海戦』で中央公論賞を受ける一方で、『逢初めて』『中年』『報道班員の手記』は発禁処分を受ける。ソロモン海戦時の軍服に残る血痕が生々しい。
雑誌に発表された作品数は膨大な数にのぼる。すでに昭和14年には『丹羽文雄選集』(全七巻)が竹村書房から刊行されており、以降、改造社『選集』・東方社『文庫』・角川書店『作品集』、そして昭和49年講談社の『丹羽文雄全集』(全二十八巻)に至る。
彼には、松原義男氏(故人)という熱烈なファンが居り、寄贈された資料が次の展示ケースを占める。自著には無頓着だった文雄が「詳しいことは松原氏に聞け」と言い、出版関係者からも問い合わせが来るほどだったという。
寄贈資料一覧の なかに、“随想『私の文学』の原稿”が目に留まった。文雄は悪筆で有名であり、丹羽番という専門の校正者が付くほどだったという。自分の筆跡についてどんな気持ちでいたのだろうか、ちょっと読んでみたいと思い、係員に尋ねた。残念ながら公開はされておらず、直接読むことはできなかったが、昭和36年11月の「風報」に掲載されていることまで調べてくれた。
壁面には、そっくりと言われた役者・長谷川一夫とのツーショットやゴルフに興じる姿などの写真が飾られている。マスコミ馴れした一面が伺える。
奥の壁面に沿って、写真・年表とともに単行本がずらりと並ぶ。昭和10年から63年まで途切れることが無く、その発行数の多さに圧倒されるが、背表紙だけしか拝めないのは何とも勿体無い。昭和27年には既に執筆原稿5万枚を突破していたという。
もう一つの功績として忘れてはならないものに、同人雑誌「文学者」の刊行がある。援助資金を全面的に出資し、新人の育成に寄与した。昭和25年の創刊号から64号、復刊1号から256号までの全冊が揃っている。
前室の書棚には、前述の掲載雑誌の他に、他の作家から文雄宛ての贈呈本も多数展示されている。また、尾崎一雄との学生時代からの親交を物語る品々も展示されている。
思いがけず、展示室目録・著作目録を頂く事が出来た。平成元年現在、図書1489冊、雑誌694冊、初出誌コピー4690点、その他395点、文雄宛て贈呈本366冊ということである。平成12年現在、記念室にない図書が22点、捜してみて下さいとのこと。
『唇の門』(新生活社 昭11)
『日本小説代表作全集 7』(小山書店 昭16.12)
『現代文学選 18』(鎌倉文庫 昭21)
『現代小説選』(家の光協会 昭22)
『丹羽文雄自選集』(オリオン書房 昭22.09)
『人と獣の間』(鎌倉書房 昭22.10)
『真珠』(婦人春秋社 昭23.08)
『贅肉』(春陽堂 昭25.02)
『日本小説代表作全集 23』(小山書店 昭26.03)
『戦後十年名作選集 4』(光文社 昭30.05)
『現代日本小説大系 59』(河出書房 昭32)
『日本国民文学全集 31』(河出書房新社 昭32)
『包丁』(フランス・モンデアルネ 昭35)
『国民の文学 13』(河出書房新社 昭38)
『顔』(日本ブッククラブ 昭45.08)
『名作自選日本現代文学館』(ほるぷ出版 昭47)
『現代の小説』(三一書房 昭47.04)
『文学選集 37』(講談社 昭47.05)
『日本名作自選文学館 9』(ほるぷ出版 昭49)
『現代の小説』(三一書房 昭49.09)
『現代の小説』(三一書房 昭50.04)
『現代の小説』(三一書房 昭50.09)
他の郷土出身の作家に関する資料も頂いた。
田村泰次郎……昭和22年の『肉体の門』で知られるが、学生時代から評論活動・同人誌創刊などを手がけている。
伊藤桂一……商社や出版社への勤務の傍ら、詩作・小説執筆を続けた。中国での兵士生活が彼の戦争文学のベースとなっている。『螢の河』で第46回直木賞受賞、代表作『悲しき戦記』『竹の思想』。
近藤啓太郎……図画教師としての勤務の傍ら、「文学者」に参加。『海人舟』で第35回芥川賞受賞、代表作『冬の嵐』『海』。
三者の展示スペースもあるが、丹羽作品の多さに圧倒されて、隅に追いやられている感は否めない。
昨今の財政事情では、独立した文学館建設・運営は難しいのかもしれない。地元の住民にとっては、図書館の方がより気軽に立ち寄れるし、作家が身近な存在に感じられるだろう。しかし、この記念室は明らかに飽和状態であり、開放的とも言えない。何らかの改善策を施し、多くの人に親しまれるフロアとすることが望まれる。(2000.8.15 丹羽倫子)
●所在地:〒510 三重県四日市市久保田一丁目2−42
●電話:0593-52-5108
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