第23回

名張市立図書館江戸川乱歩コーナー

 このコーナーは、三重県名張市が江戸川乱歩の出生地であることから、名張市立図書館に設けられた。
 見学は自由、受付横の奥まった一画にある小さな部屋である。
展示ケース内には、乱歩愛用のマントや杖、文机が展示されており、その時代の雰囲気を醸し出す。作家時代の書斎机は写真で掲示。後に活躍の場は東京に移り、この書斎机や多くの資料は豊島区池袋の自宅に残っている。
 幼少時代は各地を転々としていた。8歳で菊池幽芳訳「秘中の秘」を母に読んでもらい、13歳で黒岩涙香『幽霊塔』を知ることによって、探偵小説への興味は早くから芽吹いていたようである。21歳で初めて創作した探偵小説「火縄銃」は『冒険世界』に投稿したが採用されず、早稲田大卒業後も職は定まらなかった。社内誌編集や古本屋、記者など書くこととは関わり続け、28歳で執筆した「二銭銅貨」「一枚の切符」が『新青年』の編集長・森下雨村に認められ、30歳で作家として身を立てるに到った。
しかし、この30歳代は、「D坂の殺人事件」「心理試験」「陰獣」「蜘蛛男」などの好評作作成と、長編の休載や休筆宣言といったスランプとを交互に繰り返している。40歳で池袋に居を構え、評論・編纂に従事したり、「怪人二十面相」「少年探偵団」など少年物の連載を開始するなど、活動の幅を広げるが、時代は戦争に向かっていく。
事実上執筆停止状態に追いこまれた戦時中の様子が長男平井隆太郎氏「父の貼雑(はりまぜ)帖から」の引用で、また、家族との交流の様子が自筆の手紙の展示で、伝えられている。自伝資料は「貼雑年譜」と題され、乱歩自らが作成した貴重なもの。東京創元社から発行された復刻版は、池袋・光文社ビル内「ミステリー文学資料館」で閲覧が可能。
1949年(昭和24)から創作を再開するとともに、少年物の執筆や若手の育成に力をいれることとなる。江戸川乱歩賞は、1954年(昭和29)に制定された。第28回受賞作品「焦茶色のパステル」(岡嶋二人著)の応募原稿が展示されている。
乱歩の直筆原稿で展示されているものは、「黄金仮面」「鬼の言葉」の二作。他に、「生誕の碑」建立についての自筆礼状や58歳にして果たした名張訪問の写真も展示されており、地元への思い入れが伝わってくる。また面白いものでは、“捕物作家クラブ”の集合写真(矢貴東司、村上元三、横溝正史、野村胡堂、土師清二、城昌幸)がある。横溝正史とは、上京時からの長いつきあいであり、“探偵作家クラブ”を結成した仲でもある。
壁面に沿って、初期の発行本が並ぶ。施錠されており、背表紙を見るだけだか、古めかしい装丁は乱歩の世界にいざなうにはぴったり。きっと当時の子供達は、今以上に恐怖と期待を抱きながら手に取ったのであろう。
尚、生誕の碑は、名張駅西に向かって徒歩10分、桝田医院の敷地内。(2002.8.10 丹羽倫子)

●所在地:〒518-0712 
三重県名張市桜ヶ丘3088-156
●電話:0595-63-3260
●開館時間:10:00-18:00
●休館日:月曜日 祝日 図書整理日(原則毎月25日) 年末年始

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