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楽しい電子ルリユール教室-3

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浜野 智(電子ルリユールの会)



電子本もまた、パソコンでつくられるファイルの1つ。
それをつくるアプリケーションがあり、
それぞれのアプリケーション特有のフォーマットがあります。
電子ルリユールに最適なフォーマットは?

1.電子本のフォーマット

 一説によれば、電子本と称するもののフォーマットは、現在10種ほどあるそうです。今年の春に東京で開かれた国際ブックフェアでも、電子本販売の先駈けとなったパピレスのブースでそう聞きました。できるだけ多種のコンピュータ上で動くようにすることが商品化の前提ですから、MacintoshとWindowsの双方で動作するハイブリッド仕様のものがそれだけあるということなのでしょう。いや、パソコンのシェアを考慮に入れて、Windows専用のものも含まれているかもしれません。
 パピレスではこの多種多様なフォーマットの共存を「売りにくい要因の1つ」と見なしているようでしたが、商品として売るつもりのない、あくまでも個人の楽しみとして電子本をつくる側にとっては、これはとりあえず歓迎すべき現象です。フォーマットが多様であるほど、それぞれの個性を吟味し、選択する楽しみが広がります。
 ただし、現状の「10種」については、そう楽観してばかりもいられないかもしれません。実際のところ、私自身は、エキスパンドブック、PDF、TTZ(ドットブック)、BookJacket、Kacis Book……プレーンテキストやHTML、さらにはDirectorなどのいわゆるマルチメディア・タイトル作成ソフトでつくられたランタイムを含めてもその10種を正確には把握できないでいるのですが、いま挙げただけでも、それぞれの将来性を考えると、「?」をつけざるをえないものがあります。具体的には、それはこういうことです。
 パソコンを古くから使っている人は、過去にいくつものアプリケーションが華々しく登場しては消えていった事実をよくご存じでしょう。例えば、1980年代の終わりに
Macintoshの付属ソフトとして大きな話題を呼び、Directorや電子本作成ソフトの母体となったHyperCard。絵本のシリーズ「アマンダ・ストーリーズ」など数多くの傑作を生んだこのソフトも、いまでは名前を知る人さえ少なくなりました。Appleが開発を停止し、アピールすることをやめてしまったからです。
 このように、パソコンのアプリケーションというのは、「永続性を期待しにくい」という面が強くあります。売れなければ市場から消えていくのはどんな商品にも共通しますが、パソコンのソフトの場合にはその傾向がより著しいのです。そして、そのソフトの上でつくられ、動作するのが電子本。紙の本が「安定したメディア」であるのに比べ、電子本は「不安定なメディア」といわざるをえません。
 だからこそ、どのフォーマットを選ぶかというのは、電子ルリユールの最重要ポイントなのです。

2.現実には2つしかない電子本フォーマットの選択肢

 ひょっとすると、異論のある向きもあるかもしれません。しかし、これまで個人的におつきあいしてきた電子本制作者たちの意見を総合すると、結局のところ、電子本は2つのフォーマットに集約されていきそうです。PDFとTTZ(ドットブック)です。
 この2つのフォーマットがどんなものであるかの紹介はあとにまわすとして、実は、私自身は現在フェイドアウト状況にある「エキスパンドブック」が、いまも電子本づくりの最上のアプリケーションであり、フォーマットであると考えています。
 この話をし始めると長くなるばかりですが、エキスパンドブックの母体はアメリカでつくられたExpanded Bookで、当初はアプリケーション自体がHyperCard上で動き、HyperCard上で読むことができる作品をつくる、Macintosh専用のフォーマットでした。これを日本語化したものが初代のエキスパンドブックで、代表的な作品としては、ボイジャーからリリースされた稲垣足穂のテキストに基づく『TARUHO FUTURICA』(1993年3月)があります。
 幸いなことに、この電子本はいまもMacintoshでそれなりに動きます。そこで、画面キャプチャーを3点見ていただくことにしましょう。
 最初の1点は、トップページ(表紙)です。「タルホ・フューチュリカ」の文字部分をクリックすると、ページが移動し、目次から目次へとたどっていくと、2点目の写真のような本文ページが表示されます。当時のMacintoshの標準であったフォントがいまは存在しませんので、文字はあまりきれいではありませんが、当時はその読みやすさに感激したものです。
 さらに、3点目はいくつかのファイルが複合された形になっていた『TARUHO FUTURICA』の一部分、「オルドーヴル」の1ページです。この時点でのエキスパンドブックは、縦組みができませんでした。その欠点をカバーするために、ここでは文字組をグラフィック化したものが使われています。それだけではありません。当時のパソコンのことですから非常に時間のかかるまどろっこしいものではありましたが、「オルドーヴル」はずっと音楽が流れ続ける、いわゆるマルチメディア・タイトルの先駈けでもありました。「本から音が出る!」そんな素朴な驚きを想像してみてください。
 さて、パソコンの歴史ではすでに旧石器時代に属するであろう古めかしい電子本をハードディスクの納屋の奧から引っ張り出してきたのは、ここに電子本の原型があるといまも思うからです。2点目の画面キャプチャーをもう一度見てください。右側のグレーの地の部分にあるのは、ページからページへ、あるいは章から章へとクリック1つで飛ぶことのできるツールボックスです。現在の電子本のインターフェイスは、この時点ですでに完成していました。
 それだけではありません。横組みではありますが、このページ、実に「これぞ本だ!」というイメージがあります。これは強力でした。過去、私は100点以上の電子本をつくってきましたが、それはこの驚きをもって始まったのでした。
 そうして、エキスパンドブックは、当時は強力なライバルもなく、一人電子本の王道を雄々しく、しかし電子本に興味をもつユーザーは少数でしたからパソコンの世界全体としては細々と歩み続けたのですが、残念ながら、現在はすでに開発が停止されています。したがって、OSのバージョンによっては完全な動作が期待できなくなっています。「寿命が尽きた」と言っていいかもしれません。
 しかしながら、Windows上ではあまりきれいなテキスト表示ができないという欠点を知りつつも、あえて言いましょう。エキスパンドブックこそは電子本の原点である、と。なぜなら、エキスパンドブックは「固定サイズのページ」を基本に成り立っています。そして、ページからページへと移動していくのが本であり、絵本に代表されるようにその移動効果を生かす発想でつくられたものが本であって、だからこそエキスパンドブックは「本」なのだ、と。
 ここでは、そんなエキスパンドブックの最高傑作と呼びうるものを青空文庫から選んで、話を移すことにしましょう。さあ、出てきてください。INAINAI.ebkさん。
 そうだ、あれこれ書き連ねるより、何よりもまず作品自体を味わっていただくのが一番でしょう。エキスパンドブックを読むにはブックブラウザと題されたソフトが必要ですが、これはMacintosh用のもの、Windows用のものそれぞれがいまもボイジャーのサイトからダウンロードできます。
 準備をして、INAINAI.ebkこと束原和多志著『いないないヴァーチャる』を見て、読んでください。また、同じエキスパンドブックでも、『いないないヴァーチャる』の「動」に対する「静」ともいうべき山村暮鳥の詩集『聖三稜玻璃』のエキスパンドブック版もぜひ見ていただきましょう。電子本の魅力のエッセンスが、これらからは感じとれるはずです。そのあとで、この話をまた続けましょう。(この項続く)

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