楽しい電子ルリユール教室-4

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浜野 智(電子ルリユールの会)


電子本もまた、パソコンでつくられるファイルの1つ。
それをつくるアプリケーションがあり、
それぞれのアプリケーション特有のフォーマットがあります。
電子ルリユールに最適なフォーマットは?

3.画面で読むか、プリントで読むか

 エキスパンドブックが画期的だったのは、それがはじめての「画面で読む本」だからでした。このフォーマットを考案した人たちは、そもそもはMacintoshの世界にようやく登場した、一般ユーザーにも手の届く価格帯のラップトップ・パソコン、PowerBookの液晶画面を見て発想したといいます。「アマンダ・ストーリーズ」に代表されるそれ以前のHyperCardによる電子本もまた「画面で読む本」ではありましたが、大半が絵本仕立てでつくられたように、「画面で文字を読む」は二義的な要素にとどまっていました。そこへ突然出現したのが、ヨーロッパの古い図書館に保存されている古書を開いたような、格調高い基本デザインを装備したエキスパンドブックだったのです。
 そんなエキスパンドブックの特徴は、同じくボイジャーからリリースされた次世代のソフトT-Timeとそのオーサリング専用アプリケーション「パブリッシャーズ・キット」でつくられるTTZ(ドットブック)に受け継がれています。「画面で読む」ことを意識したフォーマットにはほかにBookJacketやKacis Bookがありますが、これらは商業的に電子本をつくろうというならともかく、あくまでもアマチュアの楽しみとして電子ルリユールをやっていく上では、手本となる既存の作品が少なすぎます。それに、BookJacketの場合は電子本を制作するためのソフトは公開されていないようですし(おそらくは出版社向けとしてつくられたものなのでしょう)、Kacis Bookは横組み専用です。
 というわけで、個人的には(くどいようですが、どんなフォーマットを選ぶかはあなたの自由です。私自身の経験の範囲内では…という意味です)画面で読む上では、現時点ではTTZ(ドットブック)が最上のものと思います。エキスパンドブックとはちがい、T-Timeはそもそもが電子本作成ソフトではなく「テキストリーダー」つまりはさまざまなテキストを気持ちよく読むためのソフトとして登場したアプリケーションですから、ページサイズは固定ではなく可変、いや文字のサイズやフォントだって自由に変更できるフレキシブル性が、その大きな特徴となっています。その自由さを生かせば、エキスパンドブックが持っていた「脚注」機能などは装備していないものの、イメージの上で似たものをつくることは簡単です。
 さて、それでは選択肢として挙げたもう1つのフォーマット、PDFはどうなのか。こちらは、そもそものしくみからして、印刷のしくみを活用してつくられたファイル形式です。例えば、Wordで整形されたファイルは、画面上ではWordがなければ読むことができません。そこで、普通は紙にプリントして、Wordを持たないユーザーにも読めるようにします。PDFをつくるAcrobatはそんな「紙への印刷」を「ファイルへの印刷」に切り替えるソフトで、その結果、元々のアプリケーションの有無に関係なく、読み出し専用ソフトであるAcrobat Reader(Acrobat eBookReader)さえあれば誰にでも読める汎用性のあるファイルが生成されます。
 したがって、印刷機能をもつアプリケーションによってつくられたファイルは、すべてAcrobatでPDFにつくりかえることができます。1つの電子本ファイルを画面で読むだけでなく、印刷にも適するものにしたいという場合には最適なソフトと言っていいでしょう。ただし、元々がB5やA4などの用紙サイズに合わせてつくられたファイルであるだけに、画面で読む際にはスクロールの頻度が増すなどの不便はつきまといます。

4.PDFとTTZの違いを目で確かめる

 能書きばかりたれていても仕方がないので、ここからは実例で説明していくことにしましょう。
 試みに、梶井基次郎の短編小説「器楽的幻覚」を素材に、3つの電子本ファイルを作ってみました。まずは、それらの3つを見ていただきましょう。うち2つはPDFなのでAcrobat Readerが、もう1つはTTZなのでT-Time(+QuickTime)が必要です。ダウンロード先はこのファイルの末尾で示しますので、お持ちでない方はそれぞれの提供元へアクセスしてください。
 さて、3つのファイルは下記にあります。クリックしてください。
1.「器楽的幻覚」PDF
2.「器楽的幻覚」PDF(トンボ付き)
3.「器楽的幻覚」TTZ
 フォーマットが2種なのにファイルが3点あるのは、PDFの1つには「トンボ」をつけたからです。トンボというのは印刷の世界の用語で、製本するために裁ち落とす際の目安となるラインを示すものです。電子本にわざわざそんなものをつけたのは、レイアウトしたファイルを両面プリントし、それを束ねて電子ルリユールではなく本来のルリユールの素材にする人たちがまだまだ存在するからです。そういった目的のためには、Acrobatは非常に便利なソフトです。
 トンボ付きも含めて、PDFはどちらも文庫本サイズでつくりました。紙の本としては小さいサイズです。しかし、画面で見ると、むしろ大きく感じられます。まして、文字が画面でも苦痛なく読めるよう拡大表示にすると、800×600ピクセル程度のモニターではやや苦しくなります。これがPDFの弱点です。
 その点、TTZは、基本ウィンドウサイズを640×480ピクセルに、文字サイズを16ポイントに設定してあり、画面で読むには最適です。モニターで読む場合、背景色が白だとコントラストがきつくて目が疲れやすくなりますので、ページのバックにはグラフィックを配置してあります。同じことはPDFでも、というよりPDFの元になるファイルを作成するアプリケーションがそういった機能を持っていればできないことはありませんが、その結果、ファイルサイズが大きくなり、画面で見るには重たくなるという問題があります。PDFの本領はやはりプリントなのです。逆に、T-Timeによるプリント機能は、おまけの域を出ないレベルです。
 さあ、3つのファイルをご覧いただけたでしょうか。そして、感想はいかがでしょうか。画面で読むなら、やっぱりTTZ。しかも、失敗しても無駄プリントなどがないから、何度でもやり直せるのがいい。そんな声が聞こえてきそうです。
 いやいや、どうせなら紙に印刷してから、市販の書籍に負けない美しい本をつくりたい。そう思う方だっていらっしゃるかもしれません。どちらを選択するかは、どんな素材を使って、どんな目的のために本づくりをするかで決まります。
 次回は、そんな電子本づくりに必要な基本装備、作成に使うソフトや電子テキストの入手方法などについてご案内する予定です。(この項了)
この点では、ファイルそのものはTTZと相似形であるドットブックも同じです。TTZとドットブックの大きな違いは、後者の場合、ウェブブラウザのウィンドウ内に表示できる点と時間を設定して表示にスクランブルをかけることができる点にありますが、ファイルをドットブック化するソフトは月額50000円のライセンス供与の形でしか提供されていません。

■閲覧ソフトの入手先
1.Acrobat Reader:http://www.adobe.co.jp/support/downloads/main.html
2.T-Time、ブックブラウザ:http://www.voyager.co.jp/software/index.html

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