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1.電子本とT-Time 「電子本」というと、普通パソコンで作成するワープロや表計算のファイルとは違う、何か特別なもののような気がします。しかし、その実態は、単なる「ファイル」です。パソコンのファイルは、テキストデータだけで構成される「プレーンテキスト」(Windowsでは.txtという拡張子がつくファイルですね)と、それ以外の「バイナリーファイル」に分かれます。電子本もまた、そのバイナリーファイルの1つです。 ということは、特定の形式の電子本をつくるには、専用のソフトウェアが必要だということです。前回説明したように、電子本のフォーマットはさまざまですが、私たち電子ルリユールの会は「ttz」を標準ファイルとし、これから先は電子本=ttzを前提として話を進めていきます。ttzは、ボイジャー社が開発・発売するハイファイ・テキスト・リーダー(妙な名前ですが、その意味するところは使ってみればわかります。本質的には、これは、電子本作成ソフトというより、モニター画面でテキストを読むという行為をよりハイ・フィデリティ化するアプリケーションなのです)T-Time(ティータイム)で作成します。 T-Timeについてはボイジャー社のサイトでご覧いただくのが手っ取り早いと思いますが、すべてのコンピュータで同じものが動作するわけではなく、下記のような種類に分かれます。 1)パソコン版 →Macintosh版、Windows版があります。また、Mac OS X版のものもありますが、現時点では未完成です。 2)PocketPC版 →マイクロソフト社のOS「PocketPC」を搭載したPDAで動作するバージョンです。 3)for PalmOS →「PalmOS」を搭載したPDAで動作するバージョンです。 T-Timeはボイジャー社のサイトから無償でダウンロードできますが、そのままでは専用ファイルであるttzを開いて読むことができるだけです。電子ルリユールのためには商品版が必須です。登録コードだけの購入であれば2000円、パッケージ版なら3400円で入手できます。ただし、これだけではttxと呼ばれるttzの元になるファイルをつくることができるだけで、ttzそのものをつくることはできません。ttz作成には別途「パブリッシャーズキット」(30000円)が必要ですが、ボイジャー社ではttzを低価格で作成するサービスも行っています。詳しくは、ボイジャー社のサイトでご覧ください。 さて、パブリッシャーズキットも含めて、T-Timeは「電子本をつくる」ソフトではありません。一言でいえば、「既存のファイルを電子本に変換する」ソフトです。それでは、「既存のファイル」とはいったい何かということになりますが、テキストデータだけでできたテキストファイルや、インターネットのウェブの標準ファイル形式であるHTMLファイルがそれにあたります。要は「デジタル化された文章」があればいいのです。 ただし、ウェブがまさにそうですが、単に文字だけでなく画像を入れたい、それも静止画だけでなく動画(アニメーション)を入れたい、さらに進んで音声を入れたいなどの、いわゆるマルチメディア化はいまや当たり前のこととなりました。T-Timeは、そんな要望にも応えてくれます。というより、ふだんあなたがウェブで目にする写真あり、イラストあり、アニメあり、音楽ありのページ、これを好みの形の電子本に整形できるソフトが、T-Timeなのです。 2.素材はどう入手するか T-Timeでつくる電子本の主素材は文章、すなわちテキストデータです。本には絵本や写真集のようにグラフィック中心のものもありますが、これらの電子版をつくるにはT-Timeは必ずしも向いているとはいえません。つくることはできますが、位置指定やサイズの調整などが複雑になります。グラフィック素材を順序よく整理しておいてドラッグ&ドロップすれば自動でセンター配置のページをつくってくれた、エキスパンドブックのような便利な機能もありません。Macintosh専用のものでいえば低価格のシェアウェア「絵本工房」など、便利なソフトがほかにあります。 それでは、そのテキストデータをどうやって用意するかということになりますが、まずは自分で書いたものを電子本化したいということがあるでしょう。この場合は簡単です。「プレーンテキスト」または「HTMLファイル」形式で保存すれば、T-Timeで使えます。 パソコンの右も左もわからないという初心者の方向けにもう1ついえば、「プレーンテキスト」というのは、ワープロ独自の書式を省いたファイルということです。例えば、Wordをお使いなら、「テキストのみ」で保存すれば、Wordの文書ではなく、プレーンテキストファイルとなります。 もう1つの「HTMLファイル」ですが、自分の作品をホームページで公開しているといった方なら、その公開ファイルがそのまま使えます。普通のテキストファイルをわざわざ「HTMLファイル」に加工する必要はありません。T-Timeは、プレーンテキストとHTMLをきちんと区別して、解釈できます。 さて、自分のホームページが自由に公開できるインターネット時代とはいっても、自分でそれなりにまとまった形の文章を書くことのできる人は、やはり少数でしょう。その意味で、過去のルリユールがそうであったように、電子ルリユールの楽しみもまた「好きな文章、好きな作品を自分好みの形に加工する」ところにあります。そうです、青空文庫をはじめとする「図書室系」のサイトから得られる、電子化された名作、秀作、問題作の活用です。 そのためには、これと思う作品のデータをその作品が公開されているウェブサイトからダウンロードし、自分のパソコンのディスクに保存する必要があります。これが電子ルリユールの第一歩です。 ダウンロードについては、注意したいことがあります。さっき自分で書いた文章の利用について述べたこととは逆に、公開ファイルを利用する場合は、「HTML形式」(ソース、ソースモードとも呼ばれます)で保存することです。例えば、明治大正に書かれた文学作品の場合、ルビ(ふりがな)を適切につけることが、読みやすくする上での重要ポイントになります。青空文庫で公開されている作品についていえば、HTMLファイルの多くには「ルビ用のタグ」がすでに付加されています。これを生かさない手はありませんし、そのためには「HTML形式」での保存が必須なのです(たとえ、ダウンロードの対象がHTMLファイルであっても、テキストモードで保存した場合は、すべてのタグが消えます)。 ダウンロードについては、さらに注意点があります。ウェブブラウザの仕様に基づく、保存ファイルのファイル名の問題です。ここではMacintosh環境を前提に述べますが、Netscape7.0で夏目漱石の「坊ちゃん」のHTMLファイルをソースモード(「Webページ、HTMLのみ」)で保存するとき、何も特別に指定しないと、ファイル名は「752.html」となります。また、Internet Explorer5.1の「HTMLソース」モードで同じファイルをダウンロードした場合は、ファイル名が「坊ちゃん」になります。前者ではあとから見たとき何のファイルかわからなくなるおそれがありますし、後者ではファイルの種類がわかりません。例えば、「bottyann.html」のように、内容もファイルの種類も簡単に識別できるようなファイル名をこの時点でつけておくことをおすすめします。 また、公開元のサイトがフレーム付きのページデザインである場合には、また新たな問題が出てきます。例えば、Macintosh版のInternet Explorer5.1では、「HTMLソース」を選んでダウンロードしても、保存されるのは「フレームを定義しているHTMLファイル」であって、肝心要の作品ではありません。保存したいフレーム内でマウスボタンを押し続け、表示されるメニューから「フレームを新しいウィンドウで表示」を選んで保存するなど、ウェブブラウザの特徴をよく知った上で対処する必要があります。 同じアプリケーションでもバージョンによっては異なる場合がありますし、市販の書籍などを見て、手順を正確につかんでおくとよいでしょう。 3.加工に必要なその他のツール さて、素材となるテキストファイルと商品版のT-Timeが揃いました。あとは、好みの形の電子本にするべくさくさくと仕上げていくだけ…といいたいところですが、実はこれだけでは足りません。ごく基本的な装備として、いくつかのアプリケーションが必要です。 例えば、T-Timeにはテキストの編集機能があり、メニューで「編集→テキスト編集モード」を選択すれば、テキストの削除や修正などの編集作業ができます。ただし、難点はスピードの遅さ。この欠点を解消するために、同じメニューに「エディタによる編集」が用意されています。いろいろな点から見て、この「エディタによる編集」を使うことをおすすめします。 そのためには、使いやすいエディタ(テキストエディタ)を用意しておくことが必要ですが、MacintoshにはSimpleTextが、Windowsには「メモ帳」が標準のエディタとして付属しています。これらを使うことも選択肢の1つではありますが、SimpleTextや「メモ帳」には扱えるファイルサイズの制限があります。これでは長編小説などはとても処理できませんから、Vectorなどのダウンロードサイトから無料で使えるエディタを入手しておくとよいでしょう。「メモ帳」の場合には大きなファイルを開こうとすると「Wordpadで開きますか」というダイアログが表示されますが、Wordpadはエディタではなくワープロソフトなので、保存の際に「テキスト形式」を選ぶ必要があります。 テキストエディタは電子ルリユールに欠かせないツールですが、その他、つくりたい本の内容に応じて、いろいろなソフトが必要になります。例えば、電子本に画像を加えるためには、グラフィック系のソフトが必要です。T-Timeが扱えるのはgif及びjpegフォーマットの画像ファイルですので、この2種が扱えるものなら何でもかまいません。とりあえず、Adobe社のPhotoshop LEを推薦しておきますが、これにこだわる必要はありません。フリーウェアやシェアウェアにもいいものがあります。 音声や動画についても同じです。これらの素材をつけ加えようとすれば、素材を適切に加工できるアプリケーションが必須です。例えば、楽譜作成ソフトFinaleでつくった楽譜ファイルをjpeg画像に加工して電子本に入れ、これをクリックすると、リンクが機能してMP3の音源が再生される…といったことも可能です。ここでは詳しい説明は省きますが、自分のやりたいことにマッチしたツールが必要になるということだけは覚えておいてください。 なお、画像や音声(効果音など)、動画については、著作権フリーの「素材集」が数多く市販されていますので、これらを利用する方法もあります。ちょっと変わり種では、「デジタル蔵書印」のサービスを行っているサイトもあります。 4.ファイルの公開など 最初に述べたように、電子本もまた「バイナリーファイル」の1つです。制作には何かと面倒な約束事がつきまといますが、それだけにすべてをクリアして自分の好むものができたときの喜びはまた格別です。この喜びこそが、電子ルリユールの原点です。 しかも、電子ルリユールには、アナログベースのルリユールにはない利点もあります。その最大のものは、公開が容易だということでしょう。自分のホームページを持ち、そこにファイルを収納すれば、それだけでOK。一品制作に近かった紙のルリユールとは違って、複製も無限に可能です。 個人のホームページを開設したり、ファイルを公開したりといったことには、これまたいろいろなアプリケーションを使いこなす必要がありますが、それについてはインターネットの解説本などを参照してください。ここから先は、とにかくまず1つ電子本をつくってみることだけ。次回からは、能書きとおさらば、電子本づくりの実践段階へと入ります。お楽しみに! ※ 個人の楽しみとするなら問題ありませんが、作成した電子本を一般に公開する場合は、著作権上の問題がないか、充分に注意してください。青空文庫に登録されているテキストの場合には、1つ1つの図書カードに著作権が消滅している作品、著作権が生きている作品の区別が明示してありますので、その点をチェックしてください。 |